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スルーハイキングとは

 スルーハイキング(Thru-Hiking)とは比較的距離の長いトレイル(登山道・自然歩道)をワンシーズン以内で通してハイキングすること。もちろんトレイルに宿泊施設などは無いので、ハイカーはテントや食料を自ら背負わなければならず、また環境や天候の変化に対応する技術も必要とされる。数千キロの長距離トレイルともなればスルーハイキング達成には数ヶ月を要し、期間が長いだけに、手先の技術だけではなく人間としての体力・精神力・生活力が重要になってくる。ハイキングのひとつの到達点として、長距離トレイルのスルーハイキングは多くのハイカーの憧れである。

スルーハイキングの楽しみ


 スルーハイキングは「点」ではなく「線」の思考。目的は「通して歩くこと」。スルーハイカーの目指す先はトレイルの終点かもしれないが、重要なのはそこに到るまでの過程である。数千キロの長距離トレイルを踏破、この言葉は何か英雄的・冒険的な響きを持っているが、実際のスルーハイキングはもっと生活臭いものではないだろうか。食べて・歩いて・寝て、スルーハイキングは日々の生活の繰り返しである。そしてその期間が長いほど、無駄が削ぎ落とされて生活はよりシンプルになり、「楽しみ」の本質が抽出されてくる。自然の中を移動しながら生活する、ここにこそスルーハイキングの楽しみがある。スルーハイキングに関しては、しばしばその困難や苦労が強調されがちであるが、実際のスルーハイカー達は単純に歩くのが楽しくてしょうがない、そんなちょっと変な人たちである。

 厳しすぎる環境を避けるため、つまりは過剰な雪や寒さを避けて3シーズン内で終わらせるために、ロングトレイルのスルーハイキングには時間的制限がある。スルーハイカーはある程度計画的に歩かなければならないのだ。このことから、スルーハイカーは先を急いで多くを見逃している、という批判がある。なるほど確かにゆっくり歩かなければ見えないものもある。しかし歩き方の違いは、楽しみの優劣とは別の問題ではないだろうか。そこに住んでみなければ分からない楽しみもあれば、長い距離を移動することで得られる楽しみもある。そもそもスルーハイカーは急いで歩いているわけではなく、一日のうちで歩いている時間の割合が多いだけである。セクションハイクとスルーハイク、あるいはハイキングのスピードやスタイルなどを比較しても「楽しみ」の優劣は決められない。自分の足で移動することで景色に変化をもたらす、そんなスルーハイカーの楽しみがあってもいい。

トリプルクラウン Triple Crown


 数ある長距離トレイルのなかでも特に有名なのがアメリカの三大トレイル、通称トリプルクラウン(三つの王冠)である。西海岸側の赤いラインがパシフィック ・クレスト・トレイル、内陸の青いラインがコンティネンタル・ディバイド・トレイル、東側の緑のラインがアパラチアン・トレイルである。その長さや自然環境に関してだけではなく、トレイルを取り巻く文化(トレイルカルチャー)の成熟度の点でも、トリプルクラウンは他のトレイルを圧倒している。

 それぞれのトレイルの特徴をわかり易いように表にしてみよう。一般的にそれぞれのトレイルの難易度は初級AT、中級PCT、上級CDTとされている。確かに距離やサポート体制の点から見ればこれは正しく、少なくとも初めての長距離トレイルにCDTを選択するハイカーはごく少数であろう。しかし必ずしも単純に順位付け出来るものではないのも事実。それぞれが独自の魅力と難しさとを持っている。

PCT CDT AT
通称 A Trail of Extremes The Wild Child of the Triple Crown The Long Green Tunnel
通過する州 3州 5州 14州
北端 カナダ、ブリティッシュコロンビア州マニングパーク モンタナ州グレイシャー国立公園(カナダ国境) メイン州マウント・カタディン
南端 カリフォルニア州カンポ(メキシコ国境) ニューメキシコ州コロンブス(メキシコ国境) ジョージア州スプリンガー・マウンテン
一般的なスルーハイクの方向 北上 通説無し 北上
距離 2663.5マイル(4261.6km) およそ2800マイル(4500km)? 2181マイル(3510km)
期間 どちらも平均して5ヶ月間前後。それ以上時間がかかると雪で足止めを食う恐れあり。健脚で補給をスマートに出来るならば3ヶ月間でも可能か。PCT・CDTと比べると時間的制約は易しい。7・8ヶ月かける人も多い。
年間のスルーハイカー数 約300人(うち成功率6割) 約30人(成功率不明) 約2000人(うち成功率2割)
自然環境 砂漠、高山、氷河、レインフォレスト。 南部は乾燥しているが、北部では案外雨も多い。 砂漠、キャニオン、高山、氷河。 全体的に乾燥している。平均して標高が高い。 中低山。ひたすら続く樹林帯。 湿度が高く雨も多い。日本の山によく似ている。
最高標高 4009m カリフォルニア州フォレスターパス 4350m コロラド州グレイズ・ピーク 2025m テネシー州クリングマンズ・ドーム
最低標高 42m オレゴン州カスケード・ロックス 1218m ニューメキシコ州コロンブス 37m ニューヨーク州ハドソン川
トレイルの状態・完成度 スイッチバックなどを多用し、高低差があっても傾斜は常に緩やか。トレイルはとても歩き易く、マーキングも充実。 未完成のためクロスカントリーやダートロードが多い。ルート選択肢は無数。ナビゲーション必須。 マーキングは完璧だが、尽きることのない急傾斜のアップダウンで案外距離を稼ぐのは難しい。簡易シェルターが大量に設置されている。
サポート体制 地域の知名度はそこそこ高く、トレイルエンジェルも多い。自然と文明との絶妙なバランスが保たれていて、ウィルダネスに浸かりながらも適度に補給が出来る。 トレイル周辺の地域でも知名度は低い。トレイルエンジェルはごく一部。一部補給環境が厳しい。 もっとも歴史が深く、地域のサポートも篤い。長距離トレイルが社会のシステムとして機能している。トレイル周辺に町が多く、補給間隔は他より短い。
危険要素 毒蛇、さそり、タランチュラ、クマ、蚊、ポイズン・オーク、水あたり(ジアルジア)、低体温症、道迷い、滑落、渡渉 毒蛇、さそり、タランチュラ、クマ(グリズリー!)、蚊、ダニ、水あたり(ジアルジア)、低体温症、道迷い、滑落、渡渉 毒蛇、クマ、蚊、ダニ、ポイズン・オーク、水あたり(ジアルジア)、低体温症、道迷い、滑落、渡渉

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