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スルーハイカー用語集

 ロングトレイルにはスルーハイカーの間でしか通じない特別な言葉が沢山ある。そして、それらの言葉の裏にはスルーハイカーの生態・価値観・知恵などが秘められている。ロングトレイルカルチャーの象徴として大変興味深い。

2011年9月9日「PUD」を追加。

AYCE(All You Can Eat) 食べ放題
 ハイカーはいつでも食べ物に飢えている。質より量、高カロリー大歓迎。Buffetとも呼ぶ。

Bear Box ベアボックス
 トレイル上に設置された金属製の頑丈な容器。キャンプの際、食料をこのベアボックスの中に保管することで、熊から食糧を守ることが出来る。これを使えばベアキャニスターは必要ないのだが、その代わりキャンプサイトが限定される。

Bear Canister ベアキャニスター
 利用数の多い国立公園では、人から食糧を奪うことを熊が覚えてしまっている。それ故、食糧を熊から守るためにハイカーはベアキャニスター(通称ベアカン Bear Can)と呼ばれる頑丈な容器を持ち歩くことが義務付けられている。キャンプの際には、食糧やその他匂いの強いもの(食器、歯磨き粉など)をその中に入れて、テントから離して保管するのである。

Bounce Box バウンスボックス
 郵便局への局留めを利用して、自分で自分自身へと送る荷物のこと。トレイル沿線の町の郵便局で受け取って、また次の補給地に送るということを繰り返しながら自分の行く道を先行させる。中身は人それぞれだが、トレイルに持ち込む必要は無くとも定期的に必要なもの(例えば電子機器の充電器など)、まだ先の地図やガイドブック、ギアのスペアなど。Drifter Box(ドリフターボックス)とも呼ばれる。

Cowboy Camp カウボーイキャンプ
 シェルター無しでのキャンプ。カリフォルニアのような乾燥した気候では、天気も比較的安定していて、夜露も少ない。しばしばシェルターの必要を感じないような夜がある。環境さえ許せば積極的に行なってもよいと思う。目を開けると星空、こんな贅沢なキャンプは他に無い。

Flip Flop フリップフロップ
 ロングトレイルを一筆で通して歩くのではなく、ヒッチハイキング等で部分的にスキップしておいて後から戻ってきて歩くこと。過度の雪や乾燥を避けて歩き易い季節を選ぶためである。例えばPCTならば、春先早い時期に砂漠を歩いた後、次のシエラネバダ山脈はまだ残雪が多いので一先ずパスして他の区間(北カリフォルニアなど)を歩き、後で雪の消えた頃にシエラに戻ってくるのである。時間的制約を少なくできるし、それぞれの区間のベストシーズンを楽しめる。しかし交通費や移動時の時間的ロスがネックでもある。

Hardcore Hiker ハードコアハイカー
 がしがし歩くハイカーのこと。信じられないことに一日で50マイル歩くようなハイカーがたまにいる。

Hiker Box ハイカーボックス
 ハイカーの集まる郵便局やトレイルエンジェル宅にはハイカーボックスと呼ばれる箱が置いてある。中身はハイカーが置いていった不用品であり、他のハイカーの再利用に資するのが目的である。捨てる神あれば拾う神あり、案外掘り出し物も多い。余った食糧からテントやバックパックまで何でもあり、細かいことにこだわらなければここからハイキング道具一式揃えられるかも。

Hiker Midnight ハイカーミッドナイト
 ハイカーにとっての真夜中は都会人より早く来る。21時くらいか?

Hiker Trash ハイカートラッシュ
 直訳すれば「みすぼらしいハイカー」(ハイカーの出したゴミのことではなくハイカー自身のこと)。おそらく町で普通に生活している人々と比べるとハイカーの姿がそう見えることがあるからだろう。しかしこれは必ずしも悪い意味とは限らない。むしろしばしばハイカー達は自らのことをあえてこう呼ぶ。ここにはある種の誇りすら含まれている。一週間シャワーが浴びれなくとも、ハイカー達はそれと引き換えに町では得られないすばらしい経験を得てきているのである。

Hiker Wave ハイカーウェイブ
 毎年PCTスルーハイキングに300人前後の人々が挑戦しているそうだが、季節との兼ね合いで時間的制約があるため、その大半のハイカーは4月後半にメキシコ国境を出発する。多くのハイカーが同時期に一度にスタートするので自ずと北上して行くハイカーの大きな波つまり「ハイカーウェイブ」が生まれる。自分の場合は、このハイカーウェイブを避け常に先行するように歩いていたのだが、ハイカーウェイブに飲み込まれる或いは遅れて追走することになると少々問題が出てくる。イナゴの大群ではないが、ハイカーウェイブは町のスーパーの食料を買い尽くし、またモーテルやトレイルエンジェル宅の部屋を満員にしてしまう。歩行ペースの違いや脱落者が出ることから、PCTの後半になると波は大分散らける。

Nero Day(Nearo Day) ネロデイ
 午前中に町に到着したり、夕方に町を発ったりと、一日のうちで少ししか歩いていない日のこと。Nearly Zero Day(ほぼゼロデイ)の略である。

NOBO/SOBO ノーボー/ソーボー
 NOBOはNorth Bound(北向き)、SOBOはSouth Bound(南向き)の略である。南北に延びるトレイルにおいて、その南北どちらからどちらに向かって歩くのかを表している。PCTスルーハイキングではNOBOが一般的で、自分もNOBOであった。

Post-hole ポストホール
posthole もともとは柵の支柱を立てるための穴のことだが、ハイカーがこの言葉を使った場合、雪に足が沈んで出来た深い穴のことを指す。朝のうちの残雪はまだハイカーの体重を支えるだけの硬さを保っているが、日が高くなってくると雪はすぐに柔らかくなる。一歩踏み出した途端に、雪の表面がハイカーの体重を支えきれずに落ち込んでしまうのである。脚一本が完全に雪に飲み込まれてしまうようなこともざらである。
ポストホールに落ち込んでポーズをとるスルーハイカーPrincess

PUD ピーユーディー
 Pointless Up Downの略。特別景色があるわけでも無いのに、トレイルが無意味なアップダウンを繰り返す状況のこと。PUDを嫌がっていたらATは歩けない。自分は胸を張ってこう言える「I love PUD!」。

Purist ピューリスト
 ハイキングに関する原理主義者。程度の差はあるが、スラック・パッキングを拒み、またオフィシャルトレイルを辿ることに極端にこだわりショートカットや寄り道を嫌うハイカー。

Register レジスター
 トレイルの入り口(トレイルヘッド)や、あるいはハイカーが立ち寄る町の店や郵便局などに置いてあるハイカーの記録簿。登山届けのように硬いものではなく、ハイカー同士のコミュニケーションが目的である。

Section Hiker セクションハイカー
 あるトレイルの一部の区間を歩くハイカー。スルーハイカーとセクションハイカーとは、その距離によってではなく、そのトレイルの定義との関係で区別される。ジョンミューア・トレイル全行程(211マイル)を歩くハイカーはスルーハイカーと呼ばれるが、PCTの半分(1332マイル)を歩いても未だセクションハイカーなのである。

Slack Packing スラックパッキング
 他の協力者の助けを借りて、寝食に必要なギアなどを持たずにハイキングをすること。具体的な方法としては、協力者の車(あるいはヒッチハイク)で送り迎えしてもらい街に泊まったり、トレイルと車道が交差する所に先回りして荷物をデポしてもらうなど。Slackとは「緩い」や「だらしない」を意味するが、ハイカーが使うこの言葉はひとつのハイキングの方法としてもう少し肯定的な意味を持っている、と思う。しかし文明から離れた奥深い自然の中を歩こうと思うとなかなか実現困難なことも事実。荷物を少なく出来る反面、通して歩くという達成感に欠くことやトレイルへのアクセスの煩雑さも問題だろう。

Thru Hiker スルーハイカー
 ある定められた区間のトレイルをワンシーズンで通して始めから終わりまで歩くハイカーのこと。

Trail Angel トレイルエンジェル
 ハイカーをボランティアで助けてくれる人々のこと。トレイルと町との間を車でハイカーを運んでくれたり、町での宿泊場所を提供してくれたり、トレイル脇でクーラーボックス等に入れて飲み物や食べ物を差し入れてくれたり。トレイルエンジェルは、ハイカーにとってハイキングを続けるための大きな励みであり、また彼らのおかげでハイカーは歩くことに集中できるのである。ただただ感謝である。

Trail Magic トレイルマジック
 トレイルで起こる偶然の幸運などのことをこう呼ぶ。トレイルエンジェルとの出会いもトレイルマジックである。

Trail Name トレイルネーム
 実名とは異なるトレイル上でのニックネーム。社会での複雑な肩書きは、ハイキングの世界では意味を成さない。トレイルという新しい世界への一種の洗礼名とも言えるだろう。
 私のトレイルネームは本名から単純に「Yas」。しかしトレイルネームはひとつだけとは限らない。後には「コンスタントに着実に歩く」との評を得て「Steady」、さらに気づくと(何となくこっちの方がカッコイイいからとの理由で)「Rock Steady」と呼ばれるようになっていた。他にも、私が町に降りると必ず「V8」という野菜ジュースを飲んでいることから「V8」なんて呼ばれることもあった。
 トレイル・ネームの背後には秘められたストーリーがあったりして面白い。自分の出会ったハイカーの例を挙げるならば、アボガドばかり食べているからAvo、ハイカーの間でナビゲーター役(つまり情報係)を務めているが時々間違えるので(失敗のミスと未婚女性の敬称ミスの二重の意味で)Miss Information、70歳のスルーハイカー65+5、人並み外れた視力を持つHawk Eyeなどなど。  

Triple Crown トリプルクラウン
 アメリカにはPCT以外にもアパラチアン・トレイル(AT)とコンティネンタル・ディバイド・トレイル(CDT)というロングトレイルがある。この三つすべてのスルーハイクを達成することをトリプルクラウンと呼ぶ。

Watermelon Snow スイカ雪
watermelonsnow シエラネバダを歩いていると表面が真っ赤に染まった残雪をしばしば見かける。ひどい所だとまるでここで殺人でもあったのでは、と思わせるような鮮やかな赤色をしている。原因は氷雪藻という藻によるものだそうだ。自分では確かめていないが、英名のWatermelon(スイカ)は色ではなくその匂いからきたとか。詳しいことはWikipediaの氷雪藻を参照。

Yo-Yo Hiking ヨーヨーハイキング
 同じトレイルを往復すること。玩具のヨーヨーの動きからとった名だろう。PCTヨーヨーハイキングとはつまりメキシコ>カナダ>メキシコと8500キロを歩くことを意味する。ワンシーズンでのPCTヨーヨーハイキングは2004年にScott Williamsonによって初めて達成された。ちなみにこのScott Williamsonは毎年のようにPCTをスルーハイキングしている超有名人で、2006年にもPCTヨーヨーハイキングを達成、さらに2009年にはPCTスルーハイキング(NOBO)最速記録(65日9時間58分)を樹立している。

Zero Day ゼロデイ
 全く歩かない休息日、つまり0マイルの日をゼロデイと呼ぶ。毎日歩くのがあたりまえのスルーハイカーにとっては特別な日である。

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