逍遥遊


パシフィック・クレスト・トレイルのスルーハイクとは


アメリカにある無数のトレイル(登山道あるいは自然歩道)のうちでも、特に距離の長いトレイルのことをロングトレイルと呼び、このロングトレイルをワンシーズンで通して歩くことをスルーハイクと呼びます。期間が長くなればそのすべての食料を一度に背負うことは到底不可能なので定期的に町に寄って補給や休息をすることになりますが、トレイル上は自然保護の観点から人が歩くための便宜以外には極力人為が排除されており、当然宿泊施設などもなく、スルーハイカーはテントや食料など生活道具を自ら背負ってその多くの日々を野外で過ごさなければなりません。

パシフィック・クレスト・トレイル(Pacific Crest Trail以下PCT)はこうしたアメリカを代表するロングトレイルのうちのひとつで、南はカリフォルニア州とメキシコとの国境沿いの町カンポから、オレゴン州・ワシントン州を跨ぎ、北はカナダのブリティッシュコロンビアまで、アメリカの西海岸にそって南北に伸び、その距離は約4200キロに及びます。PCTのスルーハイキングは北上ルートが一般的であり、私の計画も北上ルートですが、これを達成するには大体5ヶ月前後かかるとされます。

これだけの長距離なので、その自然環境は多岐に渡ります。

  • カリフォルニア州南部 (スタート0kmから1129km地点まで)
    灼熱のモハベ砂漠など、乾燥地帯が続き、五月でも昼間の気温は35℃前後まで上がるそうです。強烈な太陽と水の確保の困難さとが問題になります。しかし一方で、サン・ワシント山脈(標高2750メートル)などそれなりに標高を稼ぐ山もあるので、残雪や気温差の問題もあります。

  • カリフォルニア州中部・北部 (1130kmから2730km地点まで)
    アメリカ屈指のアルパインルート、シエラネヴァダ山脈。PCT最高標高点4017m。少し寄り道をすればアラスカを除いたアメリカ本土最高峰のホイットニー山(4418m)へも登れます。有名なところではヨセミテ国立公園・セコイア国立公園等々、見どころは尽きません。残雪と雪解けで増水した川の渡渉が問題か。氷河の侵食によって形成されたシエラネヴァダ山脈から、後半は火山作用によって形成されたカスケード山脈へと徐々に地形が変化していきます。

  • オレゴン州・ワシントン州 (2730kmからゴール4284km地点まで)
    オレゴン州は比較的緩やかな地形で、スルーハイカーにとっては距離の稼ぎ時ですが、ワシントン州のカスケード山脈北部に入ると再び険しい山岳地帯となります。シエラに劣らず素晴らしい景観が待っているそうです。北緯が高いので到着時期が遅くなると積雪の心配が出てきます。

このような厳しい自然環境を通過するため、どうしてもスルーハイクの可能な時期というものは限られてきます。この時間的制約がスルーハイクを一層難しいものにしています。五月半ば以降の砂漠は人間にはあまりにも暑すぎ、また乾燥のため水の確保が困難になるのですが、だからといって時期が早すぎるとシエラネバダ山脈の残雪が多すぎます。さらに前半でもたつくと、後半に北緯の高いカスケード山脈での積雪の心配が出てきます。自ずとPCT北上スルーハイクの計画は、4月後半から歩き出し、6月半ばにシエラ山脈の玄関口ケネディ・メドー(スタートから約1130キロ地点)、そして9月中にカナダにゴール、となります。あせる必要はなくとも、先のことを考えてのペース配分が必要でしょう。



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