以下は私がPCTで使用した装備の表とそれぞれの簡単なレビューである。全行程を通して同じ道具を使ったわけではなく、途中で買い換えたり不用品を日本に送り返したりと試行錯誤しながら、結果的に下のような装備に落ち着いた。この試行錯誤もロングトレイルならではの楽しみだろう。PCTを終えた今もこの表を見直してみるとまだまだ改善の余地がある。スルーハイキングの楽しみ方は人それぞれで正解というものはないが、少しでも参考になれば幸いである。
バックパック
補給を頻繁に行なうので、距離が長いからといっても大きなバックパックが必要だとは限らない。むしろ概してスルーハイカーのバックパックはセクションハイカーのバックパックよりも小さく軽いことが多い。スルーハイカーの間ではULAやゴーライトのフレームレスモデルが定番であった。
グラナイトギア
メリディアンベイパー 自分が使用したのはグラナイトギアのメリディアンベイパー。フレーム無しでもしっかりした背面パッドとヒップベルトで背負い心地は文句なし。元々付いていた雨蓋、長さの余分なベルト類、フロントのデイジーチェーンなど必要のない部分を切り取って975グラム。本体重量はウルトラライトとはいえないが、就寝時には足元のマットとして使用できるし、バックパックの総重量が10キロ近くになる時はヒップベルトがありがたい。またフロントの二本のストラップを使うことでマットを中に入れるか外付けするかを選ぶことができて、容量の変化に対応し易く、嵩張るベアキャ二スターも難なくパッキングできた。耐久性も十分でPCTを歩き終わってもまだ使えそうである。これを選択して良かったと思っている。
シェルター
ピークや稜線にこだわる日本の登山道と比べると道の付き方が穏やかなPCTは、安全なキャンプサイトに比較的恵まれていると言ってよいだろう。しかしそれは自然環境が易しいという意味では決してなく、ハイカーに安全なキャンプサイトを選ぶ選択肢が用意されているという意味でである。どんな風にもビクともしないテントで自然に立ち向かうのではなく、譲るところは譲って柔軟に対応するならばキャンプはもっとシンプルになると思う。
スルーハイカーの定番はシングルウォールテント。特にHenry Shireの
Tarp Tent(Contrail、Rainbow等)が多かった。その他にはタープ、ビビイ、ハンモックなど。また環境が許すならばシェルターを使わないキャンプ(カウボーイキャンプと呼ばれる)をするハイカーも多い。自分も機を見てカウボーイキャンプを試したが、あの解放感は病みつきになる。
レイウェイ・タープ
自分が持って行ったのは自作のタープ。デザイン自体はウルトラライト・ハイキングのパイオニアであるレイ・ジャーディンという人によるもので、通称レイウェイ・タープ、単なる長方形ではなくビークと呼ばれる庇が付いているのが特徴である。一人用山岳テントと比べるとかなり大きく、張り方にも依るがおよそ280×160(cm)くらいの床面積になり、本体重量は細引き込みで390g(ポール別)。ミシンと材料(シルナイロンと呼ばれる防水布)さえあれば誰でも作れるものだが、意外なことに、PCTでは自分以外にレイウェイ・タープを使っているハイカーと一度も会わなかった。
日本の山屋感覚からするとタープに不安を感じる人は多いだろう。自分だって元は日本の山岳テント大定番アライ・エアライズを愛用していて、そのころはタープなんて絶対考えられなかった。PCTのスルーハイクを意識するようになってからレイ・ジャーディンの本を読んで、半信半疑ながら試してみたというのが本当のところである。結論から言うと、PCTで使ってみて自分はすっかりこのタープが気に入ってしまった。
タープは荷物を軽くするための妥協策ではない。軽いことに加えて、もっと積極的な意味を持っている。まず換気の良さは特筆に値する。湿気が籠らず中を乾燥した状態を保てるので、シュラフの機能を最大限に活かせ、また十分に床面積が大きいので一人用テントのようにシェルターにシュラフが触れて濡れるという心配がない。そもそもタープは外気温との差が殆どないので結露が圧倒的に少ないのである。シュラフカバーは一切使っていない。最初はシェルター内が寒いのでは、と心配した。しかし少なくとも3シーズンでは、シェルターに求められる機能は自分と自分のギアを風雨から守ることで十分であって、保温機能はシュラフの役割である、とすぐに考え方が変わった。タープを地面近く低く張ることでシェルター内の保温も可能であるが、それはあくまで悪天候に対応するためのオプションでありタープ本来の使い方ではないと思う。
基本的にこのタープは森林限界を超えた稜線など吹き曝しの場所に張るものではなく、先に述べたようにキャンプサイトの選択が重要である。このタープをデザインしたレイ・ジャーディン本人が一切タープ用ポールなどを持たず木などの自然物に頼っていたことからもそれは明らかであろう。しかし地面ぎりぎりに低く張ったレイウェイ・タープは一般的な山岳テントにも劣らない耐風性を発揮するのも事実である。低重心ゆえに、風に立ち向かうというよりも、風をかわす、といったイメージである。低く張った時の居住性はお世辞にも良いとは言えないので、あくまでいざとなった時のオプションではあるが、やはり悪天候に対応する能力も持っているのは心強い。
なるほど、日本アルプスのような森林限界を超えた稜線歩きにはやはり不向きかもしれないが、PCTでは文句なしにこのタープは使いやすかった。
蚊対策のバグネットについては別項。
タープ用ポール
最初は軽量トレッキングポール(OD Box フォックステイル)を2本使っていたので、それをタープの支柱としても使っていた。しかし途中でトレッキングポールの必要を感じなくなり使用を止める。完全に自然物に頼ってタープを張ることも考えたのだが、テントサイトの選択肢を増やすために1本だけタープ用ポールを持つことにする。トレッキングポールの握りをはずして即席タープ用ポールとした。ちなみに前半の南カリフォルニアではポール代わりになるような自然物は限られており自分でポールを持っていった方が安心だと思う。
ペグ
アライのニードルステイクや途中で手に入れたDACのV字ペグなど、全部で10本持っていた。
グラウンドシート
最初はヒートシートブランケット、途中で貰い物のタイベックに変更。グラウンドシートが透湿素材である必要は感じないが、とにかくタイベックの耐久性は助かる。前者と比べると少々重いので足元を狭くテーパー状にカットして使う。マジックペンを持っていればタイベックはヒッチハイクの際のパネルとしても使える!?
寝具
南カリフォルニアの前半(4月末)やシエラ(6月前半)では、その地形や標高にもよるがマイナス5度近くまで気温が下がる。オレゴン州、ワシントン州も結構寒く、自分は9月はじめにワシントン州で雪に降られた。逆に暑かったのは、5月末の南カリフォルニアや7月の北カリフォルニアであった。寝袋の選択はその人の体質で全く異なるが、積極的に軽くしようとするならば、寝袋は少々薄めのものにして気候に応じてダウンジャケットやダウンパンツを持つのも賢いやり方かもしれない。
寝袋 ナンガのスウェルバッグ450DXをSea to Summitの防水スタッフサック(8L)に入れていた。シエラやワシントン州では心強かったが、北カリフォルニアでは寝袋をまったく使わない夜もあった。少々オーバースペックかもしれないが、全行程ひとつで済ますならばやはりこれぐらいが寒がりの自分にはちょうど良い。
マット
マットはリッジレスト108センチ。PCT全行程、交換せず同じものを使った。後半は大分ヘタってきていたが、途中から大事なのはマットよりも寝る地面の選択だと気づいて放っておいた。踏み固められていないフカフカの腐葉土は保温性・クッション性ともに申し分ない。もっと薄く軽いものに変えても良かったかもしれない。
衣服
同じ機能を持った服、あるいは同時に着ることの出来ない服は二枚以上持たないことが軽くするポイントだと思う。自分は、着替えのスペアは靴下しか持たなかった。町に下りるときなど汚れが気になる時は、汗を吸った下着を脱いで、その場しのぎで中間着やウィンドシェルを直に着ていた。
ロングパンツかショートパンツかは意見が分かれるが、アメリカのハイカーの多くはショートパンツを好む。ランニングショーツ等スポーツ用の軽くて動き易いものが好まれるようだ。自分も、最初はロングパンツを履いていったものの、毎日歩いていると肌との擦れや蒸れが気になるようになり、すぐにショートパンツ派に宗旨変え。ショートパンツは扱いが楽でいい。渡渉の時や雨の時なども、濡れたロングパンツを履いているよりは、ショートパンツで足だけ濡らしたほうがずっと快適だと思う。洗濯も簡単だ。確かに場所によって藪っぽい所もあるし、ポイズンオークと呼ばれる触れると痒くなる毒草もあるが、それでもわざわざロングパンツを履いて足の保護をするほどの問題ではなかった。
帽子
アウトドアリサーチのハットと
Zub Wearという伸縮性のある筒状のニット帽を持っていった。Zub Wearはパッキング時のスタッフサックとして、寒い時や寝る時の頭の保温のために使った。バラクラバのようにも使える。
ウィンドシェル上下
防風着としてモンテインのスリップストリームジャケット(68g)とモンベルのU.L.ウィンドパンツ(62g)を携帯。上下ともにコンパクトなのでバックパックのポケット等に入れて気軽に脱ぎ着が出来て、透湿性も良いので、行動着として重宝した。ペラペラだが案外耐久性もあって最後まで活躍した。
モンベル ジオライン・レッグウォーマー
普段はショートパンツで行動しているので、足の保温が必要なときに使用。タイツと違いパンツを脱ぐ必要が無いので、気軽に脱ぎ着できる。寝袋を汚さないために就寝時にも着用。
靴下
常に三足の靴下を携帯。一足は就寝時用。残り二足を、交互に川などで洗いながらローテーションで履いていた。軽くて乾きの早い薄手のランニング用のものが好みである。
手袋
モンベルのフリースミトン。自分は冷えに弱いので全行程携帯した。シエラやワシントン州では誰でも手袋が必要だろう。
ダウンジャケット
ナンガのポータブルダウンジャケット。中のダウン量は50g。濡らさないように注意はしていたが、寒いときは行動中も着ていた。
雨具
ゴアテックスのジャケットだけが雨具ではない。環境に応じて他の選択肢があってもよいと思う。比較的向こうのハイカーは雨にルーズで、使い捨てのビニールポンチョとかも多かった。大半のハイカーは透湿性のレインジャケットかシルナイロン製ポンチョなどを使っているが、レインパンツを携帯しているのは稀である。3シーズンだったら、足の濡れはたいした問題にはならない。ショートパンツで雨の中を歩いてみてよく分かったのは、衣服と違って肌の濡れは簡単に乾かせるということである。渡渉(水に入って歩いて川を渡ること)があることを考え合わせて見ても、やはりレインパンツは煩わしいだけ。
ケープ
自分が使ったのはイスカのウルトラライト・シリコンケープ。ポンチョと違って腕を出すアームホールが無い。透湿性の無いシルナイロンを使っているが下が大きく開いているので換気がよく案外結露は少ない。稜線歩きが少なく、岩場などのような手を使う場所が無いPCTではとても使いやすかった。裾のショックコードを結ぶことで風に対してもそれなりに強い。またバックパックも一緒に覆えるのでバックカバーも必要なく、ショルダーベルトや背面パッドを濡らす心配もない。そして軽い。
調理器具
クッカー・ストーブを決める前に、まず何を食べるのかを決めるのが先だと思う。お湯を沸かすだけなのか、料理を煮込むのか、はたまた米を炊くのかで必要な道具は変わる。さらに一切調理せずパン類や水で戻すだけの食事(マッシュポテトやオートミール)で済ますことも可能である。結果的には自分はクッカー・ストーブをPCT全行程持ち歩いたが、調理器具はキャンプの必需品ではなく贅沢品である、と徐々に考えが変わっていった。
PCTハイカーの間での定番ストーブはアルコールを燃料として使うものであり、アルミの空き缶から自作するのが一般的である。軽く扱いが容易なのに加えて、アルコールストーブは燃料調達の点でも恵まれている。PCT沿線の田舎町でも、ガソリンスタンドやハードウェアストアがあれば大抵手に入る。商品名はガソリンスタンドではHeet(右写真)、ハードウェアストアではDenatured Alcoholである。ハイカーフレンドリーな店では量り売りしてくれる所も多い。アルコールストーブの自作については
Zen Backpacking Stoveのページが詳しい。
自分の調理セット
自作シルナイロン製スタッフサックにEPI ATSクッカー 800ml、アルミ箔鍋蓋、自作アルミ缶ストーブ、自作五徳(West Wind風)、アルミ箔風防、木製スプーン、ライター(クリッパー)、MSRパックタオル30×25cm、燃料用のペットボトル250mlを入れていた。燃料が空で合計196g。
正直に言うと、歩き始めるまで自分が何を食べることになるのか見当がつかなかった。なので少々重くても応用が利きそうなEPI ATSクッカー 800mlを持っていった。付属の蓋は無駄に重いので単なるアルミ箔に変更。具体的な食糧については別に書くつもりだが、最終的に自分のメインディッシュは、少々煮込む必要があるが味のバリエーションも多くスーパーで簡単に手に入る通称
リプトンと呼ばれる乾燥パスタ・ライスのシリーズに落ち着いた。EPI ATSクッカー 800mlはこのリプトンには丁度良いクッカーであった。
ストーブは直径5cm程の細身のアルミ缶で作ったオープンジェットタイプ。五徳は0.8mmアルミ板を三枚組み合わせて使う、いわゆるWest Wind型。
木製スプーンは軽くて丈夫、気兼ねなく鍋を擦れるので好きだ。
フードストレージ
ベアキャニスター使用時以外は、食糧はグラナイトギアのシルナイロンスタッフサック16リットル(黄緑)に入れていた。
浄水器と水筒
水は基本的に現地調達であるが、それらがいつも良い水だとは限らなし、良い水を選んでいる余裕がなかなか無いのが現状である。それ故大半のハイカーは浄水器か浄化剤を持ち歩いている。自分の周りのスルーハイカーは、その軽さゆえに、バンダナで濾して浄化剤アクアミラというのが多かった。アクアミラは味が付かないので人気があるが、州の法律上カリフォルニア州では購入できないので、現地調達を考えている場合は注意が必要だ。自分は全行程浄水器を使った。
浄水器
自分が使ったのはボトル式の浄水器方でカタディン・マイクロ。ボトルに水を汲んでおいて飲むときに同時に浄水されるという仕組みなので、いちいち水場で止まってポンプする必要がなく、気軽に使えた。おかげかどうか、一度も水にあたるということは無かった。しかし、比較的フィルターの寿命が短いのか、徐々に水の出が悪くなっていく。PCTでは二回買い換えた。
プラティパス2.5L
折りたたみ式プラスティック水筒。砂漠では念のためもう二つ携帯していた。PCTの南カリフォルニア区間には”Platypus Assassin(プラティパス暗殺者)”がいる、とある本には書かれている。暗殺者とはサボテンのことで、無用心に扱っているとサボテンの針で穴を空けられてしまうとか。しかし実際は何の問題も無かった。最後まで同じものを使用。
その他
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エマージェンシー・リペアセット
包帯、風邪薬、軟膏、鎮痛剤イブプロフェン、靴擦れ防止人工皮膚、絆創膏、防水メモ紙、ボールペン芯、笛、針と糸、安全ピン、ダクトテープ、クリアテープ、シルフィックス、マッチ、ヘッドライト予備電池をジップロックに入れて携帯。 |
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サングラス
上野御徒町のオードビーのZ4。紫外線の量によりレンズの色が変わる調光レンズを使用。残雪の多いシエラではサングラスが絶対必要。実際雪盲にやられて他のハイカーの腕に捉まりながら目を閉じて歩いているハイカーに出会ったこともある。ケースは付属のものより軽かったので、Speedoのタオルケース。 |
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腕時計 タイメックスのアイアンマン30LAP MID。大きい時計は好きではないので、女性用のモデル。防水、バックライト、アラームの機能さえあればいい。あえて時計を持たないというスルーハイカーが何人かいたが、それも面白いかもしれない。補給に使う郵便局などに定休日がある関係から、常に曜日だけは把握しておく必要があるが。
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バケツ 折りたたみ水筒プラティパスを切断して簡易バケツとした。靴下などを川で洗濯するときに使用。スルーハイキングは生活である。
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その他 細かいものはジップロックに。中身は歯ブラシ、トイレットペーパー、予備ライター、ヘッドランプPetzl e+LITE、カメラ予備電池など。
Petzl e+LITEはコインランドリーの洗濯機で洗い、さらに乾燥器までかけてしまったが未だ動いている。たいしたものだ。
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手ぬぐい
出発前に歩いた熊野古道奥駈道のゴール熊野本宮で買ったもの。霊験あらたかな熊野権現のご利益つきの価値ある30g。 |
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ノート
B6サイズのキャンパス。日記用。 |
フロントバッグ
グラナイトギアのヒップウィングを襷がけで使用。中身はカメラ(Casio EX-Z200)、電子辞書(Seiko SR-M4000)、マルチツール(ビクトリノックス・クラシック)、コンパス(スント・コメット)、メモ帳、ボールペン(トンボ PFit)、パスポート、財布(ジップロック)、携帯電話(Docomo Foma N600)。
靴・ゲイター
言うまでも無いことだが、何よりも大事なのは自分の足に合っていること。道のりは長い、自分の足に合う靴を履いている(あるいは知っている)ことは大きなアドバンテージになると思う。ランニングシューズを使った場合、PCTスルーハイカーは平均で3〜5足を履きつぶす。現地調達で手に入るモデルは限られているので、もし「これなら絶対大丈夫(あるいはこれじゃないと駄目)」という靴があるなら、先に用意しておいて送ってもらうのが間違いないと思う。毎日長距離を歩いているとむくみや筋肉の強化によって足が大きくなるので、日常の靴より一回り大きい靴を用意した方が良い、というのはスルーハイカーの間の通説。
スルーハイカーでブーツを履いているのは極少数で、大抵がトレイルランニングシューズ。ロード用の普通のランニングシューズも多い。足元が軽いことの恩恵は大きいし、荷物が余程重いのでなければ足首の保護の必要もないだろう。足の保護のためのブーツではあるが、その環境しだいでは、その硬さ・重さが逆に足の負担にもなり得る。PCTの環境に於いては、トレイルランニングシューズが適していると思う。
防水性は本当に必要だろうか。非防水の靴はとても通気性良い。いくらゴアテックスをはじめとする防水透湿素材を使っているとは言っても、やはり非防水の靴の通気性にはかなわない。現在の防水透湿素材は未だ万能素材ではなく、諸刃の剣である。確かに外部から水が侵入してくるのは気持ちの良いものではないが、その心配が無い時には逆に防水性は蒸れの原因となることも事実である。蒸れは容易に靴擦れを引き起こす。それ故、その置かれた自然環境において、防水と非防水の靴のどちらがより足を乾燥して保てるか、という視点から考える必要がある。PCTスルーハイカーの大半は非防水の靴を履いている。渡渉の際もそのままの靴で渡るので、防水性よりも乾きの早さを重視するのである。もし防水の靴を履いて行くならば、別にスポーツサンダル等を携帯し渡渉の度に履き替える必要がある。中に水が入った防水靴は最悪である。「Water Proof Shoes(防水靴)は一度水が入るとWater Pool Shoes(水たまり靴)になる」とか誰かが言っていた。
バスク・ブラーSL
日本で何足か試した結果、米国バスク社の定番トレイルランニングシューズ「ブラーSL」を選んだ。前作の「ブラー」よりもこのSLの方が指周りの余裕があり、メッシュのアッパーはとても通気性が良い。これだけの長距離なので、いくら履き慣れた靴とはいえ色々問題が出てくるものであり、多くのハイカーが靴擦れに悩んでいたのだが、幸いにも自分はたいした問題もなく快適に歩けた。1足目は900マイル程使った後アッパーの破れで交換。同じ靴が見つからず、靴擦れに悩みながら2足目のパタゴニアの「リリース」を50マイル程、3足目のサロモンの「XA Pro 3D Ultra」を350マイル程履く。現地調達を諦めて、4足目と5足目はブラーSLを日本から送ってもらった。この靴はいつもソールの磨耗よりも先にアッパーのメッシュが破れて交換となる。
ゲイター
南カリフォルニアをはじめPCTは結構砂っぽい所がある。それ故、砂や小石が靴に入るのを防ぐためにゲイターを使うハイカーも多い。自分は非防水の伸縮生地を使ったモンベルのトレイルランニング用ゲイターを使用。最初に使っていたものは固定のための靴底を通す紐がすぐに切れてしまい面倒くさかったが、途中で買い換えてみたらモデルチェンジされていてその点は改善されていた。現地のハイカーの間では
Dirty Girl Gaiterというのが人気で、靴の踵にマジックテープで固定する仕組みになっているのが特徴。
オプションギア
季節や地域に応じて一時的に使った道具たち。
中間保温着
ワシントン州でのみ行動中の中間着としてファイントラックのドラウトセンサージャケットを使用。薄い割には暖かい。本当はシエラでも欲しかったかも。
ベアキャニスター
ベアキャニスターにもいろいろ選択肢はあるが、自分はBear Vault 500(1146g)を使用。周りのハイカーを見てもこのモデルを使っているハイカーが一番多かったと思う。ハンティングの禁止された自然保護地域の熊は人間を恐れず、むしろ人間の食べ物を目当てにしばしば人前に現れる。利用者数の多い国立公園はなおさらである。それ故PCTでベアキャニスターが必要な区間はKennedy Meadows[702.8]からBridgeport[1018.3]まで、つまりジョンミューアトレイルとその前後というのが一般的な意見である。自分はBridgeportをパスしたので次のSouth Lake Tahoe[1093.0]まで背負った。Tuolumne Meadows[942.7]付近がPCT中でもっとも熊の頻出する所だそうだ。熊自体はほぼPCT全域に分布しており、それゆえ稀にゴールのカナダまで携帯するハイカーもいる。およそ直径22cm高さ32cm、結構かさばるのでベアキャニスター無しでバックパックの容量がぎりぎりなようだと困ったことになる。
この
Bear Vault社は、普通に買ったら80ドルはするBV500を、スルーハイカーには特別に送料込み65ドルで直接Kennedy Meadows へ送ってくれる。ベアキャニスターを現地調達するつもりなら便利な方法だと思う。支払いはチェックでしか受け付けていないので注意。
家に置いておいても何の使い道もない。もしどなたかPCTやJMTなどのためにベアキャニスターを使いたい方がいればお貸しします。
トレッキングポール
時々下りで膝が痛くなることがあったので、迷うことなくトレッキングポールを2本持っていった。トレイルランニングなどに使われるOD Boxのフォックステイルという軽量なモデルである。しかし、実際に歩き出してみると膝も好調で南カリフォルニアの後半からは携帯していてもまったく使わなくなったので、結局Independence[790.2]で送り返した。
ヘッドネット
蚊に刺されるのを避けるためのネット。アウトドアリサーチのデラックス・スプリング・ヘッドネット。少々重いが金属の芯が入っていて顔の周辺に自然と空間を作ってくれる。蚊の大群に襲われて初めてこれを使ったのはTuolumne Meadows[942.7]を発った6月24日であった。
ネットテント
虫がいる時はタープの下に自作のネットのテントを吊るす。蚊のひどい地域では必需品。これもタープと同じくレイジャーディンのデザインにそのまま従って作ったので、入り口はジッパーを使わないフラップ式だったが、蚊は防げても蟻が入ってきて少々困った。もし作り直すとしたら今度はジッパー式にするだろう。Kennedy Meadows[702.8]から最後まで使用。
Big Agnes Fly Creek UL1
信じられないことだが、実は上記の自作タープをトレイル上で一度失くしてしまった。詳しい経緯はジャーナルに書くつもりだが、再び同様のタープを手に入れるまでの間、Independence[789.5]からCastella[1506.5]までおよそ700マイルを急遽購入したテントで歩いた。Big AgnesのFly Creek UL1である。フライ・テント本体・ポールを合わせて895gとダブルウォールテントとしては驚異的に軽く、スルーハイカーの間ではそこそこ人気のあるモデルである。悪いテントではないが、構造上横風には弱い。やはりこれは山岳テントではなくハイカーテントであり、吹き曝しの稜線などに張るのは怖いと思う。個人的にはレイウェイタープの方が好きである。