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Continental Divide Trail

 コンティネンタル・ディバイド・トレイル(Continental Divide Trail略してCDT)についてはまことしやかな噂や迷信が多く存在する。CDTは「トリプルクラウンの野生児 The Wild Child of the Triple Crown」との異名を持つが、その名は何も自然環境についてだけではなく、トレイルの完成度・コンディション・情報についても当てはまる。CDTは色々な意味で「荒削り」であり、それが事実を隠すベールとなって多くの迷信を生んでいるのだろう。

 2009年のPCTでスルーハイキングの味を占めて、翌年2010年に私はCDTに挑戦した。6月14日カナダ国境からスタートし、南下してメキシコ国境に10月27日到着。約4ヶ月半のスルーハイキングで私が見てきた実際のCDTはどのようなものだったのか。

 CDTは発展途上のため刻々と状況は変化していきます。下記の情報は私が歩いた2010年時点のもの。あくまで参考に留めて、最新情報はご自分で調べてください。

Continental Divide National Scenic Trail


 北米大陸分水嶺とは、その土地の水が太平洋と大西洋どちらに流れこむか、その境界となる山脈、大雑把に言えばそれはつまりロッキー山脈ということになる。コンティネンタル・ディバイド(大陸分水嶺)の名の通り、CDTはこの北米大陸分水嶺に沿ったトレイルである。しかし実際のトレイルは必ずしも分水嶺に固執せず、それより魅力のある自然・景観が近くにあるならばそちらを選んで設計されている。大陸分水嶺を機縁にしてその周辺の素晴らしい自然を楽しむためのトレイル、それがCDTの理念である。

 北端はモンタナ州グレイシャー国立公園内のカナダ国境、南端はニューメキシコ州のコロンブスという町の近くのメキシコ国境である。モンタナ州・アイダホ州・ワイオミング州・コロラド州・ニューメキシコ州、合計5つの州を通過する。山あり砂漠あり、距離が長い分自然環境も様々だ。トレイルの性質上稜線歩きが多く、平均して標高が高い。PCTと異なり、たくさんのピークを踏めるのもCDTの特徴だろう。

  • モンタナ州・アイダホ州 約900マイル
  • tripledivide
    グレイシャー国立公園
    bobmarshall
    ボブマーシャル・ウィルダネスのチャイニーズ・ウォール(万里の長城)
    anaconda
    アナコンダ・ピントラー・ウィルダネスの分水嶺歩き
    beaverhead
    穏やかなモンタナ南部の稜線

     CDT北端はグレイシャー国立公園。夏の短いこの山域では、南下・北上どちらのルートにしてもスルーハイカーは雪を避けられないだろう(左写真は6月のグレイシャー国立公園)。その後もボブマーシャル・ウィルダネス、スケイプゴート・ウィルダネス、アナコンダ・ピントラー・ウィルダネスなど見所の尽きない山岳地帯である。

     モンタナ州南部からはモンタナ・アイダホの州境沿いの分水嶺を辿る。山容は幾分穏やかになるが、その分トレイルは分水嶺を忠実に辿るようになる。景色の開けた稜線歩き、そして終わることのないアップダウン!

  • ワイオミング州 約500マイル
  • yellowstone
    イエローストーン国立公園の間欠泉
    sourdoughglacier
    ウィンドリバー・レンジのサワードウ氷河
    winds
    ウィンドリバー・レンジ
    greatbasin
    グレートベイスン

     ワイオミング州の自然環境は3つに分類できる。北部はかの有名なイエローストーン国立公園、中部にはウィンドリバー山域、そして南部はCDTでも異色の高地砂漠グレート・ベイスンである。

     イエローストーン国立公園の間欠泉や温泉は確かに素晴らしいが、バックカントリーは案外単調。この州の見所は文句なしにウィンドリバー山域だろう。PCTのシエラにも劣らない見事な花崗岩と氷河の殿堂だ。特にバリエーションルートの分水嶺に沿ったShale Mountain-Downs Mountain-Tourist Creekルート(Ley's Map WY12a-d)はCDTでも一二を争う程難易度の高い、そして美しい区間であった。

     そしてウィンドリバーの峨々たる分水嶺が一気に平坦な高地砂漠グレイトベイスンに変わるその地形の妙も素晴らしい。分水嶺が「一本線」とは限らない。ベイスン(Basin)とは盆地のこと。グレートベイスンは分水嶺にある巨大な盆地なのだが、ここに降った雨はどこにも流れ出ない。地表に染み込むか蒸発してしまうのだ。そのため定義上はこの盆地全体(あるいは盆地の周縁)が分水嶺となる。ここでは分水嶺は「面」なのだ。

  • コロラド州 約700マイル
  • parkview
    パークビュー山
    sanjuan
    サンワン山域
    carson
    サンワン山域
    thewindow
    サンワン山域のザ・ウィンドウ

     平均標高3000メートル以上、CDTの核心部。尽きることのない山また山。少し寄り道すれば、アメリカ48州で第二位の高峰エルバート山(4421m)を始め、幾つもの4000メートル峰に登ることが出来る。知名度の高い中長距離トレイル・コロラドトレイルと合流するためトレイルのコンディションはとても良い。9月の山々はもう秋の色、時期がこれ以上遅れると雪の心配が出てくる。毎年遅れたハイカーが迂回ルートを強いられている難所でもある。

  • ニューメキシコ州 約700マイル
  • kitchenmesa
    ゴーストランチ周辺のテーブル状の山「メサ」にて
    ghostranch
    ゴーストランチ
    gila
    ヒーラ・キャニオン
    florida
    フロリダ・マウンテン

     「山高きがゆえに分水嶺にあらず」。他の州と比べれば高低差が少なく、平坦な砂漠地帯の分水嶺などは地図を見なければ気づかないだろう。しかし、単調かと言えばそんなことはない。カラフルなメーサ(周囲が絶壁で頂上が卓上の岩層地形)やキャニオンなど、ニューメキシコ州独自の景色がハイカーを魅了する。砂漠地帯とは言っても、ひとえに括ることは出来ず、一日で120回以上の渡渉が待っているヒーラ(Gila)キャニオンなどもある。人によってはっきり好みが分かれるが、ニューメキシコ州を一番好きな区間として挙げるハイカーも少なくない。

    未完の帝王


    cdtsign キング・オブ・ザ・トリプルクラウンことCDTは未完成のトレイル。「CDTが未舗装路だとしたら、PCTはハイウェイだ」なんて言っているハイカーもいた。とにかくCDTは不明瞭で荒く、情報も錯綜している。しかしそれは、ルート選択の自由がハイカーに残されている、ということも意味する。「未完成」はCDT独自の魅力でもあるのだ。概して距離を稼ぐのはPCTより難しく、ハイキングの技術もより高いものが求められるが、PCTの次のステップアップとしてはこれ以上ないトレイルだろう。

     トレイルの完成度を強いて挙げるとすれば70%程度だろうか。ここ数年で整備が進み徐々に改善されてきていることも事実だが、まだまだ完成には程遠い。オフィシャルのトレイルがあっても(補給の利便性や景観の良否などの理由で)実際には誰も歩かないルート、トレイルのない藪の中にCDTサインだけがあるクロスカントリー・ルート、私有地への不法侵入をせざる得ないルート(何十回フェンスや有刺鉄線を越えたことか!)などなど、疑問なルートも多くある。また、車道がそのままオフィシャルとされている区間も多く、オフィシャル・非オフィシャル含めて全体で30%程はダートロード歩きである。

     そもそも何を持って完成とするか、それが問題であろう。CDTは完成することのないトレイル、というのが実際に歩いてみての感想である。

    二つのトレイル管理組織


     少々ややこしいのであるが、CDTに関してはCDT SocietyとCDT Allianceの二つの組織が存在する。上記のように、「CDTは完成することのないトレイル」と私が考える理由はこのことにも関係している。CDTのルートに関して両組織の意見がそれぞれ異なるのだ。お互いの連絡・協力も無いようで、これはCDTの大きな問題点であろう。

  • CDT Society http://www.cdtsociety.org
  •  国がCDTオフィシャルルートを定める以前から、独自に調査を進めルートの提案・整備を行ってきたのがCDT Societyである。設立は1978年、その当時から、如何にしたらトレイルを繋げて通して歩くことが可能になるか、というスルーハイカーの視点でルートを提案している(いったいこの時代にどれだけのスルーハイカーがいたのだろうか?)。結果的に後から定められたCDTオフィシャルルートとは多くの食い違いが生まれてしまったが、現在でもCDTSルートを支持するハイカーは多い。

  • CDT Alliance http://www.cdtrail.org
  •  1995年設立の比較的新しい組織CDTAはオフィシャルルートに忠実である。近年はCDTSより活動的でトレイル整備にも大変貢献している。しかしオフィシャルルートはあくまで「理想」、実際にはその理想に未だ現実が追いつかず未完成な区間も多い。補給や水場などに関して、あまりスルーハイカーに親切なルート設計ではない、という意見もある。

    距離


     ルートそのものが不明瞭なので、距離もやはり不明瞭。調べてみると2700マイルから3200マイル(4300kmから5100km)まで諸説混在している。個々のハイカーのルート選択にも因るので一概には言えないが、少なくとも3200マイルというのは誇張(あるいは地図上の分水嶺の長さ?)であろう。急勾配のアップダウンがCDTには多いので単純には比べられないが、歩いた感覚としてはPCTより少し長いかな、という程度。2800マイル(4500km)といったところか。

    南下ルートと北上ルート


     PCTやATでは北上ルートが一般的であるが、CDTでは共通の見解というもが存在しない。南下・北上とも毎年ほぼ同じ数のハイカーが歩いているだろう。どちらにしてもある程度の雪は避けられないが、如何にして過度の雪を避けるか、それが選択の要である。

  • 南下ルート
  •  雪に苦労するのは最初の1・2週間。モンタナ州北部の雪解けに合わせて6月半ばにスタートする。標高自体は2000メートル強しかないが緯度が高いので未だに雪は多い。その後は、秋の新雪を避けるため9月中にコロラド州を抜けることを目標に歩く。ニューメキシコ州に入ってしまえば高い山はない。のんびりゴールのメキシコ国境を目指せばよい。

  • 北上ルート
  •  6月のコロラド州南部の雪解けに合わせて、メキシコ国境を4月末にスタートする。コロラド州の平均標高は3000メートル以上、6月とはいえやはり相当の雪が残っている。そしてフィニッシュは秋の新雪よりも一足早く、9月中のカナダ国境到着が理想だろう。

     どちらにしても「6月の雪」が問題となる。雪の量はどちらも大きな違いはないようだが、トレイルの性質が大きく違う。モンタナ州北部のトレイルは標高差が大きく、一日の内でも必ず雪を避けてキャンプ(あるいは退避)できる場所がある。それに対してコロラド州南部は平均して標高が高く、森林限界下に逃げられるような場所はごく限られている。同じ6月に歩くならばモンタナ州北部の方が易しいのではないか。天候次第では逆転し得る小さな差かもしれないが、CDTスルーハイキングは南下ルートの方が易しい、と個人的には考えている。

     ちなみに多くのCDTハイカーが使っているCDT Societyによるガイドブックは、南下ルート向けに叙述されていて、北上ハイカーにとってはとても使いにくい。これも自分が南下ルートを選んだひとつの理由でもある。

    ナビゲーション


     当然ある程度のナビゲーション能力は必要。しかし比較的視界の広いオープンな地形が多く薮もひどくはない。日本の藪山歩きの方が余程難しいのではないかと思う。地形図とコンパスを使って現在地を確認しながら歩く、この基本的な技術があれば問題ないだろう。ハイカーを導いてくれるという程ではないが、CDTのサインもナビゲーションの正しいことを後から確証してくれる程度には設置されていた。私の出会ったハイカーの中ではGPSを持っている人の方が多かったが、自分は携帯せず。あったら便利かもしれないが、必須装備ではない。ちなみにCDTにおける磁北の偏差は東偏15度から10度位、まあ大体で大丈夫。

     トレイルを見失う(というよりもトレイルが存在しない)のは日常茶飯事。時には積極的にクロスカントリーで臨機応変に我が道を行く、それがCDTハイカーの流儀である。完成度の高い他のトレイルと異なり、オフィシャルに拘る原理主義的ハイカー(ピューリスト Purist)ではいられない。同じCDTを歩くハイカーは一人もいない。自分の選んだ道がCDTなのだ。

    主要なルート選択肢


     「自分の選んだ道がCDT」なのであるが、CDTのルートはハイカー達の経験の結晶という側面もある。これまでのスルーハイカー達の経験から導き出された主要なルート選択肢というものが存在する。

  • CDT北端(モンタナ州グレイシャー国立公園)
  •  CDT北端、つまり南下スルーハイカーにとってのスタート地点は大きく分けて二種類ある。どちらもカナダ国境からスタートするが、雪の状況によって選択が分かれる。ちなみにオフィシャル・非オフィシャルともにスタート地点にあるのはカナダ/アメリカ国境の碑のみ、特別なCDTの碑のようなものは無い。
     オフィシャルルートはWatertonルート。一度カナダに入国する必要がありアクセスが不便で、さらに悪名高いAhern Driftと呼ばれる急傾斜の雪の吹き溜まりが積雪期の難易度を高くしている。そもそも6月スタートの南下スルーハイカーには、レンジャーがこのルートの許可をなかなか出してくれないので、こちらを歩くのはほとんど北上スルーハイカーのみ。
     南下ルートのスルーハイカーはもうひとつのルート、Chief Mountainルートを使うのが一般的。こちらはアクセスが簡単で、カナダに入国する必要もない。私もこのルートだったが、景色も文句なしである。

  • モンタナ州中部 Butteルート(約240マイル)とAnacondaルート(約160マイル)
  •  かつては分水嶺沿いのトレイルが存在せず、効率的にクロスカントリーを避けるために現在以上に迂回ルートがあった。Butteルートは比較的新しい分水嶺沿いのトレイル、それに対してAnacondaルートは約80マイル短いショートカット・ルートである。Anacondaルートは町を通過するので補給が容易という利点があるものの、ほぼすべて舗装路歩き。自分はButteルートを歩いたが、トレイルの状態は悪くない。余程先を急ぐのでなければButteルートを進める。

  • モンタナ・アイダホ・ワイオミング州境 Mac's Innルート(約50マイル)とHenry's Lakeルート(約70マイル)
  •  私の歩いたMac's Innルートは舗装路とダートロードのミックス。町を通過するので補給が容易。Henry's Lakeルートはクロスカントリーがキツイと聞いていたが、近年は整備も進んでいるとか。結構景色も良いらしいので、時間があったらこっちの方が良さそうだ。

  • コロラド州南部 San Juanルート(約210マイル)とCreedeルート(約130マイル)
  •    San Juan(サン・ワン)山域はコロラド州の核心部。平均標高3500m以上の分水嶺を辿るのがSan Juanルート、そしてそれを迂回しショートカットするのがCreedeルートである。好んでCreedeルートを選ぶハイカーはいないであろうが、自然がそれを強いることがある。このあたりを通過するのは南下スルーハイカーで9〜10月、北上スルーハイカーで6月、どちらにしても雪に足止めを食う可能性があるのだ。私の場合は天候にも恵まれて無事San Juanルートを歩くことができた。

  • CDT南端(ニューメキシコ州)
  • southernterminal メキシコ国境に至るルートは、なんと3種類もある。私が選んだのは非オフィシャルのColumbusルート。オフィシャルではないためゴールに特別なCDTの碑のようなものはない。右写真はゴールのメキシコ国境で撮ったものだが、CDTのサインはボール紙製。共に歩いたハイカーの手作りである。

      1)Columbusルート。非オフィシャルだがCDT Society推奨のルート。ゴール地点から(あるいはスタート地点まで)の交通の便が良く、国境の検問所がゴールなのでそのまま徒歩でメキシコに入国も出来る。交通が多く騒がしいところなので、ハイキングのゴール地点としては趣に欠けるかもしれないが、ここに到るまでの水場状況や景色は悪くない。ゴール手前には、CDTの最後を飾るにふさわしいFlorida Mountainsという難所(サボテンの中をクロスカントリー!)も待っている。自分はこのルートを選択して正解だったと思っている。

      2)Clazy Cookルート。分水嶺に忠実なオフィシャルルートで、ゴール地点には立派なCDT南端の碑が建っている。しかしそれ以外には何もない荒野のど真ん中。荒れたダートロードが走っているが、交通は無いのでヒッチハイクは不可能。水場に関してもCDTの中で最悪だとか。知り合いなどによる車でのサポートが必要なルートだろう。

      3)Antelope Wellsルート。他の2ルートの中間といったところ。つまりColumbusルートのような喧騒はなく、しかしゴール地点から(あるいはスタート地点まで)のヒッチハイクも何とか可能。

    ハイカーの数


     私が把握している限りで、2010年にスルーハイクを達成したのは南下ルートで約20人、北上ルートで約15人。さらにフリップフラップ(言葉の意味はスルーハイカー用語集)で全行程歩いているのが約10人。把握していない分を含めても、全部で50人程度だろうか。CDTハイカーの数は、一般的にPCTの10分の1と言われている。年々PCTハイカーの数が増えてきているので、CDTハイカーも増えているようだ。

     「孤独なトレイル」とCDTを評す人もいるが、ハイカーの少なさはCDTの魅力でもある。さらにルート選択肢の多さがハイカー同士の出会いを難しくする。季節の関係でハイカーの多くが同じ時期にスタートするが、努めて他のハイカーと一緒に行動するのでなければ、あっという間にバラバラになってしまう。そもそもスルーハイカー達はそれぞれが自立していて固定的なグループを好まないし(カップル・夫婦の場合を除く)、グループであっても独りでも歩けるハイカー達で構成された一時的でルーズなグループの場合が多い。人と一緒に歩くのは楽しいが、他のハイカーに合わせて自分のスタイルを曲げる必要はない。私の場合、全行程4ヶ月半のうち2ヶ月間ほどは独りで歩いた。ソロとグループどちらも楽しめたわけである。

     ハイカーの人数の少なさとは対照的に、そのスルーハイキング達成率はトリプルクラウンの中で一番高いのではないだろうか。3つの中で最もハードルが高い分、挑戦するハイカーはある程度の経験と覚悟を持ってやって来る。ハイカーの大半はPCT経験者で、自分のハイキングスタイルをしっかりと確立している人達だった。

    補給・町・トレイルエンジェル


    hitchhike 町で食料補給を行うのはPCTもCDTも同じ。およそ3〜7日間ごと、補給間隔はPCTとそう違わない。自分の場合、CDTで一番長い区間はモンタナ州の約290キロ7泊8日(East Glacier - Lincoln)だった。トレイルが町を直接通過することもあるが、大抵はトレイルが道路を跨ぐ時にヒッチハイクで町へ降りる。交通量や町までの距離の点ではPCTより少々不便な部分もあるが、必ず誰かが拾ってくれるもの。ピカピカの高級車は止まってくれない、狙うはボロボロのピックアップ・トラック!

     CDTの知名度は、近年ハイカーの増加とともに上がってきてはいるようだが、未だAT・PCTとは比べものにならない位低い。町の人々の異星人を見るかのような視線がハイカーに突き刺さる(笑)。しかしどこにでも親切な人はいるもの。少ないながらもCDTにもハイカーを歓待してくれるトレイルエンジェルがいるし、さらにCDTを知らなくともハイカーに親切にしてくれる人々、つまり無自覚なトレイルエンジェルも沢山いる。

     ちなみに、なぜだかトレイルエンジェルの多くはニューメキシコ州に集中している。この州はアメリカで貧困率No.1とのこと。ヒッチハイクにしてもトレイルエンジェルにしても、持つものの少ない人ほど、多くを人に分け与える、ということらしい。

    ロングトレイル・カルチャー


     サポート体制・ナビゲーション・距離・環境などの点から見て、CDTがトリプルクラウンの中で一番難しいことは間違いないだろう。しかしCDTスルーハイキングは人跡未踏の大冒険とは異なる。スルーハイキングの栄誉はハイカー個人だけに帰すべきものではない。やはりCDTにもロングトレイル・カルチャーが息づいているのだ。それはCDT独自で生み出したものというよりも、おそらく他のロングトレイルAT・PCTで育まれた文化を母体とするものであろう。AT・PCTの文化をCDTに持ち込んだ先達のスルーハイカー達、CDTガイドブックや地図を作ってくれる人々、そしてトレイルを管理・整備する組織、数少ないながらも年々増えてきているトレイルエンジェル、彼らの存在があって初めてスルーハイキングは可能となる。

     「独力でCDTを制覇」こんな言い方は傲慢すぎる。むしろ「歩かせてもらっている」という表現が正しいだろう。スルーハイキングを終えたハイカー達の胸にあるのは、歩ききった自分への「誇り」以上に、助けてくれた多くの人々への「感謝」の方が強いのではないだろうか


    well

     一部の情報では、CDTの水場環境はトリプルクラウンの中で最悪だと聞いていたが、実際はそれほど悪くはない。水場の間隔はPCTより少々長いが、水の質はPCTと同じだろう。最初はボトル式の浄水器を持っていったがワイオミング州で故障、その後は直接生水を飲んでいたが特別問題なかった。一部の区間(ワイオミング州グレート・ディバイド・ベイスンやニューメキシコの砂漠地帯)ではそれぞれの水場が30マイル以上離れていることもあるが、ある程度の情報は手に入るので次の水場は検討はつく。高地砂漠グレート・ディバイド・ベイスンの標高は1800m以上で案外涼しく、またニューメキシコでは季節が晩秋だったこともあり、そもそも水の消費量が少なかった。私の場合、水はせいぜい持っても5リットルであった。

     CDTで特殊なのは、砂漠地帯での水場の多くが家畜用に地下からポンプで汲み出した水だということ。動力はソーラーや風力が一般的。水自体の質は良いのだが、ポンプの形状に依りパイプから新鮮な水を直接取れることもあれば、牛などが口を付けているタライ等から掬わなければならないこともある。ポンプは人工物、動いているかどうかはそれを管理している牧場主次第だったりするので、時々予想以上の長距離を水無しで歩くこともあった。我慢できず道路脇に捨てられていた飲みかけのペットボトルの水を飲んだこともあった(笑)。

    パーミット(許可証)


     アメリカの国立公園内や一部のウィルダネスエリアで泊まるためには許可が必要である。CDTで許可証が必要なのはモンタナ州グレイシャー国立公園、ワイオミング州イエローストーン国立公園、コロラド州ロッキーマウンテン国立公園とインディアンピークス・ウィルダネスである。PCTには全行程を一つでカバーするスルーハイカー専用マスターパーミットがあるが、CDTにそのようなものは存在しない。そのためそれぞれのエリアで個別に申請する必要がある。ルート選択しだいでは公園内で泊まらずに済ませたり、あるいは完全に迂回することもできるが、グレイシャーとイエローストーンに関しては必ずパーミットが必要だろう。イエローストーンに関してはトレイル沿線でその場で申請可能だが、グレイシャーでは歩き出す前にバスやヒッチハイクでレンジャーステーションへ申請しに行かなければならない。これがとてもめんどくさい。これらのエリア内ではキャンプ地完全指定制である。

    野生動物


     CDTは「アメリカ西部の生きた博物館 Living museum of the American West」。トレイルで見られる野生動物の豊富さはPCTの比ではない。下の写真はすべて自分がコンパクトカメラで撮ったもの。

    bighorn
    ビッグホーンシープ
    blackbear
    ブラックベアの親子
    buffalo
    バッファロー
    moose
    ムース
    marmot
    マーモット
    wildhorse
    野生馬
    pronghorn
    プロングホーン・アンテロープ
    badger
    アメリカン・バッジャー

    クマ対策


    hanging

     PCTと異なり、CDTではベアキャニスターは必須ではない。PCTのヨセミテ周辺などと比べればその観光客・ハイカーの数が少ないせいだろうか、CDTのクマはPCTのヨセミテほどに積極的ではない。とはいえ国立公園内でキャンプする際には、食料を吊るすか、設置されているベアボックスを使うことが義務付けられている。モンタナ州・ワイオミング州にはグリズリーもいる。自分は持たなかったが、クマ撃退用ペッパースプレーの携帯が推奨されている。

    虫対策


     蚊はPCTと同じ、多いところは本当に多い。しかし自分のように南下ルートの場合、蚊はワイオミング州のウィンドリバー山域まで。CDT後半半分は蚊をほとんど見ていない。強力な虫除け剤Deetを使うハイカーは多いが、人体への影響に関して良い噂を聞かない。私は一切虫除け剤を使わずヘッドネットだけ。蚊が多いところでは歩き続ける、単純にそれで対処できると思う。キャンプの際は長袖長ズボンが欲しい。

    tarantula

     蚊よりも恐ろしいのがダニ(Tick)。ワイオミング州グレート・ディバイド・ベイスンやコロラド州に多いようだ。ダニに噛まれるとダニ熱(Tick Fever)という病気を引き起こす可能性がある。安易に草むらなどに寝転がったりはしない方がいい。幸運にも私は大丈夫だったが、一時的にダニ熱で足止めを食うハイカーもいた。

     ニューメキシコ州ではよくタランチュラを見た。大きさは人の手くらい。そのイメージに反して、その毒性はごく低く、積極的に人を襲うこともないらしい。動きも緩慢。「好きな虫は蜘蛛」な自分の目にはとても可愛いやつだった。

    装備


     分水嶺を辿るというトレイルの性質上、森林限界以上の稜線歩きがPCTより多い。区間にも依るが、PCTをポンチョなどで済ました人もCDTではよりしっかりとした雨具や防寒着が欲しいかもしれない。詳しくはスルーハイカーの装備で。

    リンク


  • CDT Society (英語)
  • CDTSのページ。CDTSガイドブックはここからしか買えない。

  • CDT Alliance (英語)
  • 最近勢いのあるCDTAのページ。

  • Phlumf.com (英語)
  • ボランティアでCDTの地図を作っているジョナサン・レイのページ。本人はもちろんトリプルクラウナー。

  • Spirit Eagle (英語)
  • 長距離ハイキングのベテラン夫婦Sprit Eagleのページ。CDTに関する情報が満載。

    地図・ガイドブック


  • Wolf, James R. Guide to the Continental Divide Trail Volume 1: Northern Montana (Continental Divide Trail Society, 1991)
  • Wolf, James R. Guide to the Continental Divide Trail Volume 2: Southern Montana and Idaho [Part 1] (Continental Divide Trail Society, 2005)
  • Wolf, James R. Guide to the Continental Divide Trail Volume 2: Southern Montana and Idaho [Part 2] (Continental Divide Trail Society, 2005)
  • Wolf, James R. Guide to the Continental Divide Trail Volume 3: Wyoming (Continental Divide Trail Society, 1980)
  • Wolf, James R. Guide to the Continental Divide Trail Volume 4: Northern Colorado (Continental Divide Trail Society, 1982)
  • Wolf, James R. Guide to the Continental Divide Trail Volume 5: Southern Colorado (Continental Divide Trail Society, 1997)
  • Wolf, James R. Guide to the Continental Divide Trail Volume 6: Northern New Mexico (Continental Divide Trail Society, 2006)
  • Wolf, James R. Guide to the Continental Divide Trail Volume 7: Southern New Mexico (Continental Divide Trail Society, 2008)
  •  国がCDTの実現に向けて動き出す以前、30年以上前から独自に調査を進めルートの提案・整備を行ってきたCDT SocietyのリーダーWolfによるガイドブック。このガイドブックのルートは通称ウルフ・ルートと呼ばれ、後に国が決定したCDTオフィシャルルートとは多くの部分で異なっている。しかし食料補給・水場・季節などを考慮したスルーハイカーの視点からのルート選択が好評で、毎年多くのスルーハイカーがウルフ・ルートを選択している。ウルフ・ルートがスルーハイカーの便宜を考慮して作られているのに対し、オフィシャルルートはそのイデアばかりを追って現実のスルーハイカーを置き去りにすることがある、というのが実際に歩いてみた自分の感想である。ちなみに叙述は南向き(南下ルート)なので、北上ハイカーには結構不便だろう。
     全八冊に加え、更新情報をまとめた小冊子も別に二冊ある。一般流通していないので、直接CDTSに注文する必要がある。

  • Howard, Lynna Prue. Montana and Idaho's Continental Divide Trail : the official guide (Westcliffe Publishers Inc, 2000)
  • Davis, Lora. Wyoming's Continental Divide Trail : the official guide (Westcliffe Publishers Inc, 2000)
  • Jones, Tom Lorang. Colorado's Continental Divide Trail : the official guide (Westcliffe Publishers Inc, 2004)
  • Julyan, Bob. New Mexico's Continental Divide Trail : the official guide (Westcliffe Publishers Inc, 2001)
  •  CDT Allianceによるガイドブック。一応これがCDTオフィシャルのガイドブックということになるのだろうが、スルーハイカーの間で不人気なのは上に書いたとおり。スルーハイカーよりも、セクションハイカー向きに作られている感がある。またカラー写真が多いので、家で眺めている分には良いのだが、持ち歩くのには少々重いかもしれない。叙述は北向き(北上ルート)。

  • The CDT-Rom (Jonathan Ley, 2010)
  •  Jonathan Leyがボランティアで作成しているCDTマップ。多くのバリエーションルートも含めてCDT全行程をカバーする。スルーハイカーからのレスポンスを反映させた多くの注がありがたい。この地図の登場でCDTスルーハイキングは大きく変わった。Ley自身も2001年のスルーハイカーなのだが、当時は数百の地図を自分で探して買い集めなければならず、さらに地図の整理、地図のフォーマットの違いなどでも相当苦労したようだ。地図作成の手間は計り知れない。無料配布とはいえ募金が推奨されるだろう。
     地図はCDロムに焼かれた画像ファイルとして配布されるので、プリントは自分で行う。注文はこちらのページで。

  • McDonnell, Jackie. Yogi's CDT Handbook Planning Guide (Yogi's Book, 2010)
  • McDonnell, Jackie. Yogi's CDT Handbook Town Guide (Yogi's Book, 2010)
  •  PCTハンドブックでもおなじみYogiによるCDTハンドブック。計画段階で使用するPlanningと実際に持ち歩くTownの2冊組。YogiのPCTハンドブックではトレイルに関する情報も多く含んでいたのだが、CDTハンドブックでは純粋なタウンガイドのみ。CDTにおいてはルートの選択肢が無数にあるので、PCTハンドブックのように至れり尽くせりとはいかない。 

  • DeLorme Atlas & Gazetteer Montana (DeLorme)
  • DeLorme Atlas & Gazetteer Wyoming (DeLorme)
  • DeLorme Atlas & Gazetteer Colorado (DeLorme)
  • DeLorme Atlas & Gazetteer New Mexico (DeLorme)
  •  ヒッチハイクで町へ行く際、あるいは何らかの理由(山火事・悪天候・怪我・時間的制約など)で迂回ルートを強いられる時など、CDT-Romには載っていない広範囲を把握するのに役立つロードマップ。

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